薬物関係のニュースがまた新聞各紙を賑わしています。薬物依存は社会的な問題としてなかなか解決できないのが実情です。
覚せい剤や大麻など薬物乱用は覚醒剤精神病、大麻精神病などへ進むこともあるので、社会生活上様々な問題などが派生し、他者に迷惑や危害を加えてしまうことさえあります。一般の方は、あまりそのようなケースと接したことがないと思いますので、少しその状態や問題について現場の視点でお伝えしたいと思います。
最近はほとんどなくなりましたが、昔は有機溶剤(シンナー)で歯が溶けてしまい食事に苦労したり、会話も空気が抜けてしゃべりくいというケースが多かったです。運動面では、骨がもろくなっているので、ソフトボールをしただけで鎖骨を骨折するなどの事故もありました。
覚せい剤でも、眼振が止まらない、あくびや発汗がけた違いに多い、夜になると金切り声あげて叫ぶなど、自分でコントロールできないような精神反応に苦しみ、助けて欲しいということも…。重いケースでは、覚せい剤を短期集中的に使用したため、精神が極度に不安定になり、手を握っていないと体が震えて安定しないから離れないで欲しい。声が聞こえて他人を攻撃しそうになり、外に出れない部屋に入れて身体を縛ってほしいという訴えもありました。彼らと接していると、職務とはいえこちらまでが辛くなってしまうこともありました。
本人も何とか改善したいと考えているのですが、脳機能や神経系に病理学的な変化が起きていますので、自分の力だけでは克服することは難しいのです。それだけに薬物依存からの離脱は、他人の理解と協力が重要といえます。しかし一方で、妄想や幻覚から対人不信感が強まり他人を拒絶しやすくなります。そのため社会との距離が広がってますます孤立し、再使用の悪循環に陥りやすくなります。
また、有機溶剤、覚せい剤などは海馬にダメージを与えるといわれています。記憶が不安定になり、時間感覚や空間認知が混乱するため時間が守れなくなったり、だらしなくなったりして失敗し、嘘を平気でついて取り繕うようになります。だんだんと他人にも迷惑をかけることが多くなり。周囲もその異常行動に気づきはじめ何らかの働きかけがなされるようになってきますが、残念ながら改善は難しいです。そして親しい人が薬物使用に気づくころには相当薬物乱用が進んでいて、結果的に逮捕されることもあります。
このような状態にまで陥ると薬物からの改善更生は無理だろうと思われる方も多いと思いますが、改善更生は可能ではあります。しかし現実的には経済的・社会的コストがかかり過ぎてなかなか難しいのが実情です。
例えば、弊社の薬物依存の対応プログラムをを提供するとします。このプログラムは脳機能から社会性までトータルに介入しますので、かなりの密度の濃い関わりが必要になります(原則5人のチームで行います。ただ負担が大きいので1年間に1人のプログラムを提供するのが限界です)。解毒とモニタリングからはじめ、生活指導、健康管理、各種プログラムの投入して行きますが、期間は2年から3年程度かかり、その後も定期的なケアも必要となります。当初は24時間のモニタリングも必要になりますので、人件費などがかさみ数千万円もの費用が掛かることもあります。
薬物依存は一般社会内ではコストが膨大にかかり、個人の力では現実的に難しいと言えます。ですので収容してプログラムを提供する国の矯正施設の存在は重要です。特に最近では刑務所でもよい薬物プログラムが整備されており、薬物乱用で逮捕された場合は、執行猶予を狙うのも大切ですが、施設収容も長い目でみれば効果的といえるでしょう(ただし、仮釈放や釈放後の手当ても重要となります。保護観察の存在も大切です)。
このように、薬物依存や薬物乱用は、個人の問題と捉えられることも多いのですが、実は人権的にもコスト的にも社会システムに与える影響が大きいことを知っていただければと思います。