幼少期から、社会性に乏しいとか、自分勝手で相手の気持ちを考えられないなどと指摘され、年齢を重ねるにしたがって、孤独感を感じたり、友人が少ない。学校や会社組織になじめないなどと、だんだんと社会で暮らしにくくなっている方がおられます。
その暮らしにくさの要因の一つとして、本人はあまり気づいていませんが、ソーシャル・キュー(社会的合図)の読み取りが苦手ということがあげられます。ソーシャル・キューとは、相手の身振り手振りや目配せなどの周囲の社会的な環境が与えてくれる認知的なヒントで、人は社会生活上ソーシャル・キューを手掛かりにして人の意図を読み取っているのです。
これは日本だけでなく、他の国々にも存在しています。一昔前に流行った「KY(空気読めない・場の雰囲気が読めない)」は、ソーシャル・キューの読み取りに問題があるといっても良いのでしょう。ソーシャル・キューは案外知られていませんが、社会生活上、身近な存在で大切なコミュニケーション・ツールの一つとなっているのです。
ソーシャル・キューのような情報の読み方は、教科書にも書いてありませんし、ソーシャル・スキル・トレーニングなどでもあまり扱われません。とてもダイナミックなものであり、その場その場の雰囲気や状況から読み取らなくてはならないものです。顔の表情や声の高さ大きさ、姿勢、目の動きなどのわずかな認知的な手掛かりによって、相手の意図を理解しなければなりません。確かに一部の発達障害とされる方には難しいコミュニケーションの方法だと言えます。
弊社でもご相談に乗っていると、本質的には社会性や向社会性があるにも関わらず、会社で孤立したり、引きこもったり不適応状態に陥っている方が多いのも事実です。社会性があるのに社会不適応とは、矛盾があるように思われるかもしれませんが、ソーシャル・キューの読み取りが苦手なため、認知上のエラーが多発し、冗談が通じなかったり、相手の意図を正反対に勝手にくみ取ってしまうことも多いのです。そうして対人関係や集団内での失敗を重ね、居場所を失って社会性があっても次第に不適応になり、うつ状態へと陥ってしまう場合もあるのです。ソーシャル・キューという存在を知るだけでも、社会生活の質は変わると言えます。
ソーシャル・キューの読み取りの改善は、日々の生活でも十分対応できます。もし、子どもさんがソーシャル・キューの読み取りに問題があると思われたら、発達障害を疑う前に、家族内や学校での会話や心のやりとり(仲よく遊んだり喧嘩したり)が豊富になされているか、集団遊びなどの経験があるかなどの社会的な活動経験について、再点検するのがよいと思います。昔、NHKで連想ゲームという番組がありましたが、あのようなゲームやジェスチャーゲームなどを家庭内で行う、質の良い演劇を鑑賞したり参加するなど機会を設けて日々の生活のなかでソーシャル・キューの読み方を学んでいくことも大切です。
もし発達障害と診断されても、ソーシャル・キューが読み取りにくい原因を細かく調べて分析していくと改善できる場合もありますので、諦めないでください。