しつけは、基本的に親がこどもの逸脱行動を制御して、社会のルールに沿った行動ができるようにすることを意味します。しつけは社会化の一形態でもあり、子どもが将来大人になって、社会適応していくためのとても重要で大切な家族の機能のひとつといえます。
また、教育の最終目的は社会化とされ、家庭での社会化の成功は家庭教育の成功でもあり、その後の学歴形成や社会参加といった子どものライフコースに大きなプラスの影響を与えます。
しつけの初期は、ソーシャライザ(社会規範や文化を教え込む主体)の親とソーシャライジー(それを内在化して受け止める)の子供がともに教え・教えられるという一方的な形態となりますが、子どもが成長するにしたがって、説明を加えたり理解を促すなどして、一方的な方法からより選択的な方法に変化していきます。成長に合わせてしつけの方法も変化していきますが、併せて感化やモデリングなどの別の社会化の形態も子どもに影響を及ぼして、より効果的に社会化が進んでいきます。
しかし最近は、このような「社会化の一つの形態であるしつけ」を軽視するご家庭も多く見られるようになってきました。しつけは、頭ごなしに強制するから暴力的なのでしてはいけない。などと勘違いをされている場合もあります。殴ったり、罰だけで行うなどの暴力的な方法で間違ったしつけをするのはいけませんが、基本的生活習慣から社会規範や文化までを学習して社会化させるしつけの働きを軽く扱うわけにはいきません。成長に伴って、社会になじめなかったり、はじき出されるなどの社会適応上の問題が派生する可能性が高まるからです。しつけそのものを単純な視座から否定するのではなく、少し掘り下げて深い視点からしつけの意義や在り方・方法を考えていくことが大切だといえます。
また、しつけの重要性は理解されていても、しつけの目的がよく認識されていないケースも散見されます。弊社にご相談に来られる方の中には、しつけの目的を適正に認識されていないため、大変な努力しておられるのにもかかわらず、場当たり的なしつけが行われてしまい、結果的に家族や子どもが不安定になっていることもあるのです。家族などの集団や組織は、目的が達成されないと不安定になったり、解体することさえもあります。案外、気が付かれていない方も多いのですが、家族がしつけの目的を認識しそれを効果的に達成するということは、子どもの社会適応力の醸成や家族の幸福にとって、とても大切なことなのです。
しつけの目的は一般的に「自立・独立の達成」か「相互依存性の実現」の二つに大きく分けることができます。親がこの目的を適切に認識でき、そしてそれを効率的に達成するために戦略的に子どもの社会化を促せているかが、しつけの成功の大きな要因になっているといえます。
具体的には、しつけの目的が「自立・独立の達成」に置かれている場合、基本的にしつけは厳格に行われます。契約的なしつけが行われ、子どもに対してはルールへの忠誠や賞と罰で強化されます。これは、西欧の核家族に多く認められるしつけの目的です。夫婦が共同してしつけを行い、家庭は子供が船出する港であるというような価値観が背後に認められます。親子は別の世界を持っているという認識でしつけが行われ、自立や独立に最適なしつけのシステムが形成されます。
一方、「相互依存性の実現」をしつけの目的とする場合、しつけは夫婦で分業し、基本的には甘いしつけになります。日本の直系家族に多く認められるしつけの目的です。母子中心の家族の結合により親子は一心同体であるという考え方が中心になります。子どもは親の気持ちを汲むものであり、感情的一体化によるしつけが行われやすくなり、加えて親の言うことを聞きなさいという忠誠が求められます。しつけは母親の力量次第になりやすいのですが、日本の直系家族の場合、この方法で比較的社会化が円滑になされます。
ところが、ご相談の来られるご家族の中には、子どもに厳しく「自立・独立」を求めているにも関わらず、甘いしつけを夫婦で分業して行っていることが散見されます。夫婦で共同して、子どもに早くから家族内で掃除や洗濯・安全維持などの多くの役割を与え、遂行させていく厳しさもこの目的達成に効果的なのですが、実際は子どもは勉強さえしていればいいというような、甘いしつけになってしまっているのです。しつけの目的に連動した戦略が夫婦で組み立てられていないため、目的と方法が連関せず歪んで子どもの社会化に問題が発生していることもあります。
ですので、家庭内で問題が派生している場合、一度お子様へのしつけの在り方や目的・方法について、上記の視点からご家族で確認し合うことをおすすめします。これで全てが解決できるわけではありませんが、このような科学的な視点から問題を深く探していくことが大切なのです。きっとそのご家族に合った問題の解決策が見つかるはずです。
ただ、きちんとしつけをしていても子どもが反抗的になったり、不安定になったりする場合は、発達上の課題を抱えていることがあり、専門的な対応策が必要ですので、その際はご相談いただければと思います。